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水道法改正10年後の日本の水はこうなる!

日本の水が危ない⑪

 ただし、その一方で、水道事業者の提案や発議がなくても、市町村長や市町村議会がイニシアティブを発揮することも、不可能ではない。実際、浜松市におけるコンセッション方式の導入は、鈴木康友市長が中心になって実現したが、多くの首長や地方議会が今後、「水道民営化」に関心を高めることはあり得る。それを促すとみられるのが、次の三つの条件である。

 第一に、政府による「アメとムチ」だ。改正水道法に先立って成立した2018年改正PFI法では、それ以前に自治体が水道関連の事業について政府の財政投融資特別会計に基づいて地方債を起債していて、その事業にPFIを導入する場合、繰上償還を認め、さらにその際の補償金の支払いが免除される規定が盛り込まれている。要するに、これはアメだが、政府がコンセッション方式の導入を市町村に検討させるため、今後さらに期間限定の特例債の起債や補助金など財政的な協力を補強することもあり得る。

 一方、当然のようにムチもある。水道事業以外の公的サービスに目を向けると、現状ですでに市町村には、PFI導入に向けた圧力が加えられている。民間参入を促す方針のもと、政府からだけでなく、都道府県から市町村に交付されるインフラ整備のための補助金・交付金でも、すでに契約済みの事業などとともに、PPP・PFIを採用した事業が優先されやすい。言い換えると、PPP・PFI以外の事業では希望通り補助金・交付金が交付されにくいため、市町村はさまざまな事業で民間参入を検討せざるを得ない。

 この圧力は、水道事業におけるコンセッション方式でも強まるとみてよい。2015年に政府は、地方分権の一環として、水道事業に関する厚生労働省の事務・権限を希望する都道府県に委譲すると決定した(これを希望する都道府県は、水道事業基盤強化計画を策定し、監視体制を整えるなどの条件がある)。市町村と同じく、多くの都道府県もコンセッション方式に消極的だが、都道府県自身が政府からPPP・PFIの推進を迫られている以上、たとえ都道府県に水道事業の事務・権限が委譲されても、市町村に「水道民営化」を検討させる圧力がますます強くなることに変わりはない。

 第二に、企業からの働きかけだ。改正水道法や改正PFI法の成立によって、海外水メジャーを含めた民間企業が自治体にコンセッション方式の検討を促すロビー活動を強めることは、容易に想像される。こうした状況は汚職の温床になりやすいが、それもまたコンセッション方式の普及を促す一因になり得る。

 そして第三に、他の自治体へのデモンストレーション効果だ。浜松市に続き、大阪市や宮城県なども水道事業におけるコンセッション方式に関心を示しているが、こうした自治体が増えれば、他の自治体にも「バスに乗り遅れるな」という機運が生まれやすくなる。いわば一種の群集心理だが、政府による宣伝は、これをさらに促すだろう。

 以上の三つの条件がかみ合えば、現状では消極的な自治体の間でも、コンセッション方式が広がる可能性は小さくない。

KEYWORDS:

『日本の「水」が危ない』
著者:六辻彰二

 

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 昨年12月に水道事業を民営化する「水道法改正案」が成立した。
 ところが、すでに、世界各国では水道事業を民営化し、水道水が安全に飲めなくなったり、水道料金の高騰が問題になり、再び公営化に戻す潮流となっているのも事実。

 なのになぜ、逆流する法改正が行われるのか。
 水道事業民営化後に起こった世界各国の事例から、日本が水道法改正する真意、さらにその後、待ち受ける日本の水に起こることをシミュレート。

 

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六辻彰二

むつじしょうじ

国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書、共著の他に論文多数。政治哲学を扱ったファンタジー小説『佐門准教授と12人の政治哲学者―ソロモンの悪魔が仕組んだ政治哲学ゼミ』(iOS向けアプリ/Kindle)で新境地を開拓。Yahoo! ニュース「個人」オーサー。NEWSWEEK日本版コラムニスト。


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